共同の取引拒絶 共同の取引拒絶は共同ボイコットともいう。独占禁止法 2 条 9 項 1 号は、「 正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること 」を不公正な取引方法とする。 2 条 9 項 1 号イは直接の供給拒絶を、同ロは間接の供給拒絶を定める。 他方で、一般指定 1 項は「 正当な理由がないのに、自己と競争関係にある他の事業者…と共同して、次の各号のいずれかに該当する行為をすること 」を不公正な取引方法としている。一般指定 1 項 1 号は供給を受けることの直接の拒絶を、同 2 号は供給を受けることの間接の拒絶を規定する。 法 2 条 9 項 1 号と一般指定 1 項 1 号の違いは、課徴金の対象の違いである。すなわち、法 2 条 9 項 1 号が供給の拒絶を定め、課徴金の対象となるが、一般指定 1 項 1 号は供給の受入の拒絶を定め、課徴金の対象にはならない。 要件として「 正当な理由がないのに 」という文言が付されていることから、原則として 公正競争阻害性 があると考えられる。共同の取引拒絶は、共同して行われることから単なる取引先選択の自由の行使を超えた人為性が認められる。さらに、共同の取引拒絶により、取引を拒絶された事業者は、市場における事業活動を行うことが、不可能または著しく困難となる。拒絶した事業者は、これにより取引拒絶をされた事業者を市場から排除あるいは何らかの強制を行うことができる。以上の理由から、共同の取引拒絶は当然に公正競争阻害性があると考えられる。 その他の共通する要件は、 (1) 競争関係にある事業者が、 (2) 共同して、 (3) 取引(供給あるいは受入)拒絶等を行い [1] 、または、行わせることである。 (1) 共同の取引拒絶は、「競争関係にある事業者」と共同することを明示的に定めている。この競争関係は潜在的な競争関係で足りる。 (2) 「共同して」とは、特定の事業者と取引を拒絶することまたは他の事業者に取引を拒絶させることについての意思の連絡が存在することを意味する。明示的な意思の連絡のみならず、「 相互に他の事業者の取引拒絶行為を認識して、暗黙のうちにこれを認容する 」場合も含まれる [2] 。 (3) 「取引拒絶等」は、数量・内容の制限を含み、新
事業者 独占禁止法は事業者および事業者団体に対して適用される。事業者とは、「 商業、工業、金融業その他の事業を行う者 」である(法 2 条 1 項)。事業者団体とは、「 事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体又はその連合体 」である(法 2 条 2 項)。 まず事業者について見ると、事業者には、商業、工業、金融業を行う者が含まれる。すなわち、小売業者、卸売業者、製造業者(メーカー)、銀行、保険会社、証券会社などが事業者に当たる。では、「その他の事業」とは何を意味するかが問題となる。 事業とは、「 なんらかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動 」を指し、その主体の法的性格は問わない(都営芝浦と畜場事件・最判平成元年 12 月 14 日民集 43 巻 12 号 2078 頁)。したがって、事業には営利性は求められず、協同組合や共済組合、政府、地方公共団体も事業を行う限りにおいては、事業者と認められる。 たとえば市営の地下鉄・バスと民間バス会社との間で料金カルテルを結べば独禁法に違反する。郵便葉書の発効・販売について旧郵政省(国)の事業性を肯定したもの(お年玉付き年賀葉書事件・最判平成 10 年 12 月 18 日審決集 45 巻 467 頁)、および、東京都営と畜場(食肉処理場)の事業性を肯定したもの(前掲最判平成元年 12 月 14 日)がある。但し、地方公共団体や国が行う事業は、公共目的を有しているため、反競争効果を判断する上では、この事情が考慮に入れられることもある。 かつて、医師、弁護士、建築家などの専門職業・自由職業( profession )は、個人の能力が評価される活動であり、「公共性」があり、企業的性格を持たないとして事業者性を否定する見解が有力であった。しかし、 専門職業であっても対価を得てなされる経済活動であることには変わりはないこと、そして、競争を通じて提供する役務の内容や取引条件が改善されることから、事業者から除外する理由はないと考えられている 。公正取引委員会は、 建築士 を事業者として独禁法を適用し(日本建築家協会事件・審判審決昭和 54 年 9 月 19 日審決集 26 巻 25 頁、裁判所も 医師 (観音寺市三豊郡医師会事件・東京高判平成 1