事業者
独占禁止法は事業者および事業者団体に対して適用される。事業者とは、「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」である(法2条1項)。事業者団体とは、「事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体又はその連合体」である(法2条2項)。
まず事業者について見ると、事業者には、商業、工業、金融業を行う者が含まれる。すなわち、小売業者、卸売業者、製造業者(メーカー)、銀行、保険会社、証券会社などが事業者に当たる。では、「その他の事業」とは何を意味するかが問題となる。
事業とは、「なんらかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動」を指し、その主体の法的性格は問わない(都営芝浦と畜場事件・最判平成元年12月14日民集43巻12号2078頁)。したがって、事業には営利性は求められず、協同組合や共済組合、政府、地方公共団体も事業を行う限りにおいては、事業者と認められる。
たとえば市営の地下鉄・バスと民間バス会社との間で料金カルテルを結べば独禁法に違反する。郵便葉書の発効・販売について旧郵政省(国)の事業性を肯定したもの(お年玉付き年賀葉書事件・最判平成10年12月18日審決集45巻467頁)、および、東京都営と畜場(食肉処理場)の事業性を肯定したもの(前掲最判平成元年12月14日)がある。但し、地方公共団体や国が行う事業は、公共目的を有しているため、反競争効果を判断する上では、この事情が考慮に入れられることもある。
かつて、医師、弁護士、建築家などの専門職業・自由職業(profession)は、個人の能力が評価される活動であり、「公共性」があり、企業的性格を持たないとして事業者性を否定する見解が有力であった。しかし、専門職業であっても対価を得てなされる経済活動であることには変わりはないこと、そして、競争を通じて提供する役務の内容や取引条件が改善されることから、事業者から除外する理由はないと考えられている。公正取引委員会は、建築士を事業者として独禁法を適用し(日本建築家協会事件・審判審決昭和54年9月19日審決集26巻25頁、裁判所も医師(観音寺市三豊郡医師会事件・東京高判平成13年2月16日判時1740号13頁)、不動産鑑定士(不動産鑑定士事件・東京地八王子支判平成13年9月6日審決集48巻674頁)を事業者として独禁法を適用した。教育、社会福祉など公共性の強い事業についても、「なんらかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動」を行う者であれば、事業者性が認められる[1]。
このように、一般に「なんらかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動」は、事業者性が認められるため、広い範囲の経済活動を行う者が事業者に当たると理解されている。他方で、消費者、労働者は事業者には当たらないと理解されている。
事業者団体
事業者団体とは、「事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体又はその連合体」である(法2条2項)。すなわち、団体が、(1) 事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とすること、および、(2)2以上の事業者の結合体又はその連合体の構成を持つことを要件とする。
「事業者としての共通の利益」とは、事業者の事業活動遂行上の利益に直接的または間接的に寄与するものである[2]。「主たる目的」は、いくつかの目的の中の主要な目的であることを意味し、団体の目的の一つが、共通の利益の増進である必要がある[3]。
事業者が集まったものが結合体であり、結合体の集まったものが連合体である。事業者団体の形態には以下のようなものが存在する(法2条2項1号~3号)。
- 二以上の事業者が社員(社員に準ずるものを含む。)である社団法人その他の社団
- 二以上の事業者が理事又は管理人の任免、業務の執行又はその存立を支配している財団法人その他の財団
- 二以上の事業者を組合員とする組合又は契約による二以上の事業者の結合体
但し、事業者の結合体又はその連合体であっても、「資本又は構成事業者の出資を有し、営利を目的として商業、工業、金融業その他の事業を営むことを主たる目的とし、かつ、現にその事業を営んでいるもの」は、事業者団体に当たらない(法2条2項但し書)。しかし、そのような団体は「事業者」として独禁法の適用の対象となる。事業者を株主とする株式会社は、事業者として規制を受けることになる[4]。
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